2001年、私が左胸の乳がんを手術してくれたのは、O病院のA医師。
今回も私は、彼に手術をしてもらうことにしたのは、
16年前のカルテなど資料がここにあることも理由のひとつだが、
なんといっても、温存した左胸の手術痕が低侵襲であること、それにつきる。
手術以来、着るものにも困らず、温泉に行くことも、水着を着ることにも、
手術痕のためにためらったことはない。以前と変わらずに生活できた。
たまたま、私のがんが、温存手術できるものだったからというのも幸運だったが、
温存手術と一口にいっても、ここまで低侵襲な手術痕は、なかなかないと思う。
というのも、他病院で、温存手術をした人と私の満足度に、差があるのだ。
乳房温存手術については、このサイトがわかりやすいと思う。
「乳がんの手術の種類」の図の中の、(2)乳房温存手術の説明を読んでほしい。
しこりを含めた乳房の一部分を切除する方法で、「乳房温存手術」と呼ばれます。病変の部位や広がりによって、乳頭を中心にした扇形に切除、あるいはガンの周囲に2cm程度の安全域をとって円形に切除します。しこりが大きい場合、乳がんが乳腺内で広がっているとき、乳腺内にしこりが複数ある場合には、原則として温存手術の適応にはなりません。通常手術後に放射線照射を行い、残された乳房の中での再発を防ぎます。
「乳頭を中心にした扇形に切除」は、クワドラペクトミーといい、
「ガンの周囲に2cm程度の安全域をとって円形に切除」をランペクトミーという。
扇状に切除ということは、皮膚ごと扇状に切除するため、
皮膚をぎょうざの皮を包む際に、ひだを寄せるように縫うので、
どうしても胸のシェイプに影響が出る。
2cm程度の安全域をとって円形に切除するということは、
がんを梅干しのタネのように、周辺の脂肪も一緒にくりぬく。
皮膚ごと切り取らないので、低侵襲で済む。
A医師の術式は、後者である。
(もちろん、がんの種類や広がり方によって、この術式が出来ないこともある)。
今回も口を酸っぱくして、何度もA医師にお願いした。
とにかく手術痕を小さく。たとえ恋人に見せても恥ずかしくないような、
小さな傷跡にしてくださいと。
おまえさん、恋人いるのか?とA医師が嗤う。
嗤われても馬鹿にされても、これだけは譲れない。
この体で生きていくのは私なのだから。
胸を見せて歩くわけではない、と言われたことがことがあるが、
そういう問題ではない。人に見られる前に、自分が毎日体を見たときに、
納得できる状態であってほしいのだ。
文字通り胸を張って生きていくために、私にとっては必要なことなのだった。