ジコカイジ

self-disclosure‐‐‐乳がんのこと、仕事のこと、生き方のことを書いていくchisa/千祥のブログ。

母校の先輩・樹木希林さんを想う 破壊への憧憬と仏性を併せもつ魂へ

 

破壊への衝動と憧憬を持った人だった。

 

樹木希林さんが亡くなった。最近、訃報それも乳がんで亡くなる方が多いような気がするのは気のせい?

 

昨日の訃報以降、一連の報道では、自分らしく正直に生きた人という人物像が語られているが、実に表層的過ぎる。樹木希林さんは、破壊への衝動と憧憬を抱えた人である。

 

特に彼女の女優業を鑑みると、初期の「寺内貫太郎一家」「時間ですよ」「ムー一族」など、予定調和や常識、定式を破壊する役柄を好んで演じ、晩年はテレビドラマから映画へ主軸を移し、「あん」「人生フルーツ」「万引き家族」など良作でありかつ、問題提起を促すようなものにトライしている。

 

そしてなぜか今回の各報道の中では全く触れられていないが、内田裕也氏とは実は再婚であり、最初の夫はあの怪優・岸田森であることは彼女を語る上で忘れてはならない。

 

女優として選ぶ役柄も、こちらの予測や期待を裏切ったり超えたりするオモシロ発言も、そしてパートナーも、規格外の、予定調和や常識を破壊することを求めた人だった。

 

「全身がんなんです」という自身の病気についての発言もそうだ。彼女独特の文法で、淡々と語られているため、なんとなくわかったような気にさせられているが、実は結構アグレッシブなことを言っているな、と思っていた。2005年に右乳房を全摘し、その3年後に腸、副腎、脊髄に転移。今年に入って骨へも転移していたという。飄々と言ってはいるが、こちら側の日常に「病」や「死」を真正面から持ち込んでくるあたり、実は確信犯だ。そしてこの宝島社の企業広告だ。がんに罹患していることを逆手に取って、こちら側にぶっこんでくる。病気とは死とは命とはなにかを考えろと。

 

 

しかし樹木希林さん以上に、破壊への衝動を持っていたのが、内田裕也氏だったのだと思う。彼女は内田氏のことを「透明感と魂の美しさを持っている人」と評している。しかし、離婚届を提出されてもそれを差し止め、暴力を振るわれても結果としてそれを許し、なぜ頑なに別れることを拒んだのか。透明感と魂の美しさだけではあるまい。内田裕也の中に自分の破壊衝動を超えるカタストロフがあることに憧憬し続けていたのではないのかと、私は密かに推測している。

 

若気の至りもたいがいにしてほしいが、そういう時代だから、これでよいかと。

 

同窓会での樹木希林さん

仏性を見つけて、生きる。

 

今年5月、母校・千代田女学園の同窓会があった。これまで同窓会というものにはついぞ出席したことはなかったが、創立130周年記念であったこと、また女子校から共学/国際バカロレア校へと生まれ変わったこと、そして樹木希林さんが記念スピーチされるということで、親友とともに参加した。

 

ここ数年、母校は生徒募集に苦しみ、驚くほど縮小され存続の危機にあった。そののち姉妹校である武蔵野学園に吸収され、大改革を実施したその直後の同窓会ということもあって、樹木希林さんの記念スピーチは学校の今回の顛末・変転をユーモアを交えて語り、話は母校への想いについてもおよんだ。

 

(前略)

私は、ある時代にあの学校に通わせていただいた根底に、私自身はめちゃめちゃな人生を選びましたが何の悔いもない。それを支えたのはやはり千代田女学園という仏教を基にしたあの環境というものが、如何に役に立っているか。『みほとけは何処に居ますと尋ねれば、尋ねた人の胸の内に、周りにという返事』そのようなことを何も言わなくても自然と受け入れられる生徒を沢山作れたことは、もっと胸を張っても良いのではと思うんです。とは言っても男女共学になりましたが、今後も西本願寺系の仏教系の学校の特徴をいかしてもらいたいなって思います。(後略)

藤花 第64号より

 

このとき、ああやっぱり、とこれまで私の中でなんとなく結んでいた樹木希林像に、少しだけ手触りを感じるような気がした。樹木希林さんの言動には、仏教的な色彩があると思っていたからだ。

 

仏教校で学んでいたから仏教的な色彩を帯びていると短絡的に思うのではない。樹木希林さんのお父様は、薩摩琵琶・錦心流の中谷襄水であった。薩摩琵琶の中でも錦心流は優美なものだそうだが、琵琶といえば琵琶法師、そして平曲「平家物語」というように、仏教の教えを基に、人生の隆盛と破滅を語るものが多い。日々耳にする勇壮な薩摩琵琶の音色と歌が、人生に起こる出来事や人の変転することの悲しみや儚さ、諦念を教えた。そして破壊への衝動と憧憬とともに、晩年の仕事や生活をふくよかなものにしていったのではないかと、というのはうがちすぎだろうか。

 

内面から湧き上がる衝動に逆らわず女優として生き、自身を上回るカタストロフな男を夫に持ちながら、それでも人生を統御できたのは、樹木希林さんの中にある仏性ーー「みほとけは何処に居ますと尋ねれば、尋ねた人の胸の内に、周りにという返事」ーーこそなのではないか。自身の中に、そして目の前の人に宿る仏性を信じたからこそ、成し遂げられた人生だったのだと思う。破壊と仏性という、一見不釣り合いなものが巧くワークし、彼女を活かした。「めちゃめちゃな人生を選びましたが悔いはない」という発言は本心からだろう。

 

樹木希林さんは同窓会に最初から最後まで臨まれ、みんなで校歌を歌い、記念写真に納まった。病と死、老いることを見せてくれた私のワイルドで、カッコよくて、クレバーな確信犯の先輩の魂へ祈る。

 

 

 

 

 

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