ジコカイジ

self-disclosure‐‐‐乳がんのこと、仕事のこと、生き方のことを書いていくchisa/千祥のブログ。

エリザベス・キューブラー・ロスの晩年に学ぶこと。

5段階からなる死の受容を説いたエリザベス・キューブラー・ロス

エリザベス・キューブラー・ロスといえば、その著書「死の瞬間」が有名だ。その中で彼女が研究、提唱したのが「死の受容のプロセス」である。

エリザベス・キューブラー=ロス - Wikipedia

 

「死の受容」とは、否認→怒り→取引→抑うつ→受容、という5段階の経過をたどるというものだ。いまではターミナルケアを学ぶ人には広く知られている。

 

エリザベス・キューブラー・ロスの波乱の人生

彼女の著書は多数あるが、私が好きなのは、彼女の自叙伝ともいうべき「人生は巡る輪のように」だ。彼女の生い立ち、家族のこと、医師になるまでの道程、そしてロス医師との出会いと結婚、アメリカでのターミナルケア研究などが描かれている。

 

とにかく頑固というか、一途というか、一度心に火が着いたら止まらない性分の人なのだ。スイスの中産階級の家庭に生まれだが、医師になるまでの道のりも険しいものだった。父が医師になることに猛反対だったのだ。それをはねのけ努力を続け、家庭医となる。そしてスイスに留学していたロス医師と出会いアメリカへ渡る。

 

アメリカに渡ってからがまた波乱。彼女がアメリカに渡った1960年代、アメリカもまだターミナルケアは確立していなかった。死を前にした患者を招き、その思いを学生たちと聞く授業など、当時のアメリカでも前代未聞、コントロバーシャルな研究を続けて成果をあげた。

 

しかし、いいことばかりではなかった。猪突猛進な性格で、研究にのめり込んだことで、最愛の夫と離婚することになる。スピリチュアリティへの接近から、インチキサイキックに騙されたりもした。また、差別的な環境に置かれていたエイズ患者たちに安穏な生活、治療環境を整えるために作ったケアセンターを、何者かに放火されすべてを失う。

 

彼女の激しい人生の一部始終が語られている一冊である。「死の受容のプロセス」についても、それがどのようにして得られたものか、内容についても詳しく書かれているため、この自叙伝だけでも理解できると思う。

 

エリザベス・キューブラー・ロスの最期の日々にこそ、学びがある。

死を目の前にしている人へのまなざしの温かさと、研究への情熱が、いまターミナルケアを学ぶ人なら誰でも知っている「死の受容のプロセス」の発見という成果につながった。

 

晩年、数度の脳卒中に見舞われ、介護を必要とする生活となる。それは、これまで誰にも依存せず生活してきた彼女にとって我慢のならないことだった。これまで、困難な人を助ける側だった彼女が、今では介護なしで生活ができない状態になったことの苦痛は耐えがたいものだった。でも彼女は言う。「わたしはいま、辛抱すること、従順になることを学んでいる」と。

 

私は2年前の二度目の乳がん治療を経て、エリザベス・キューブラー・ロスのこの言葉が、少しわかるようになった。私はエリザベス・キューブラー・ロスのような、まるで火の玉のような人生は歩んでいない。しかし、十分にわがままに、自分勝手に生きてきた。何でも自分でやりたいし、人の手を借りるのが苦手。人のために何かするのはいとわないが、自分の好きなようになんでもしたいのだ。

 

ところが、抗がん剤治療の副作用が思っていたより強く出た。30代のときの抗がん剤治療のときはすぐ回復できていたが、今回は違った。そのため、家族の負担は大きかったと思う。家族は食事も含め日常生活の面倒をみながら、仕事をしなければならなかった。

 

私ははじめて、あらゆることに手を借り、託し、ゆだねた。本当は、少し投げやりな思いもあったが、すべてをおまかせした。おまかせすることを学んだ。エリザベス・キューブラー・ロスのように。

 

病気になったというだけでなく、より死を意識する年齢になったこと、そもそも肉体がおとろえたことも関係すると思う。これから老いが加速してきて、そういうことを実感することが出てくるんだろう。病いも難しいが、老いも難しそう。未知の領域である。

 

人生は廻る輪のように (角川文庫)

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