白血病に罹患したことを発表した池江璃花子さん。今日の午後からこの話題で持ち切りである。夕方には水泳連盟の記者会見もあり、彼女がすでに治療を開始していること、東京オリンピック出場を諦めていないことが伝えられた。
池江さんは日本記録を多く塗り替え、来年に迫った東京オリンピック出場、メダル獲得も期待されている日本水泳界のホープだ。いまは治療に専念し、東京オリンピック出場を目指すという彼女の言葉に、どのバラエティ番組、ニュース番組も、それが可能なのかどうか、医師のコメントと共に紹介していた。
彼女はAYA世代のがん患者である。
《AYAはadolescents and young adults(思春期と若年成人)の略》がん患者のうち、15歳から30歳または40歳前後までの人。
[補説]一般に小児がんの対象となる年齢からは外れており、また成人のがん患者としては若年であることから、受診できる医療機関が少なかったり、公的な支援が受けにくかったりするなどの問題がある。AYA世代(アヤセダイ)とは - コトバンク
AYA世代のがん患者には、その世代独自の問題や悩みがある。
精神的なストレス
病気や治療への不安、入院のストレス、治療の副作用によるストレス、外見の変化(脱毛や色素沈着など)に伴うストレス
家族の問題
親子関係、同胞との関係
社会の問題
学校の問題、友人との関係、仕事・職場の問題、経済的な負担
将来への不安
進学、就労、結婚、出産など晩期合併症について
思春期・若年成人(AYA世代)に発症するがん診療 | 国立がん研究センター 東病院
自国開催であるオリンピックが来年に迫り、池江さんだってオリンピック出場、メダル獲得への夢を持っているだろう。もちろん私も、池江さんの復活劇を期待しているひとりだ。彼女が人生を賭けてきた水泳で、さらなる頂点、栄光をつかんでほしいと願っている。
でも、彼女の周囲の人たち、そして我々も、そういう美談の形成を彼女に押し付けてはいけない。池江さんは、オリンピックでメダル獲得を期待されるトップアスリートであると同時に、まだ18歳の少女である。白血病の治療には抗がん剤治療はマストであり、脱毛などの副作用は避けられない。大学進学を目前としての罹患なので社会的な問題もある。そして、アスリート以外の人生に期待することーーー恋愛や結婚、出産などにも問題を抱えるかもしれないのだ。
治療が佳境なときは、それに集中するしかない。しかし長期に渡ればまた異なってくるだろう。池江さんはトップアスリートだから、精神力も普通の人よりは強靭だろうし、レジリエンス能力も高いから、きっと乗り越えるのだと思う。
でも、東京オリンピックに間に合うように、困難を乗り越えた末に獲得する栄光、という美しい期待だけを池江さんに向けてはいけない。
彼女はここから半年、もしくはもっと、治療に専念することになるだろう。周囲の美しい期待なんて無視して、自分の時間を大切にしてほしい。静かな環境で、本当に治療に専念してもらいたい。
今回、池江さんという有名人が白血病であることを公表してくれたことをきっかけに、AYA世代についてもっと知ってもらいたいと思う。
私の最初の乳がんは34歳のとき。独身だったし、仕事のこと、出産のことなど、治療後の人生を描くことができず苦しかった。当時はまだAYA世代という言葉もなく、誰にも相談することなく苦しんだ。いまはAYA世代のがんについての活動も盛んになっていることに隔世の感がある。そして、この変化は素晴らしい。