虫歯になった。
左の下顎の奥歯と上顎の奥歯が、虫歯になったようだ。沁みるし、舌先で触れると歯がすでに溶けている??? 実は昨年、抗がん剤投与中に、左奥歯の異変には気づいていた。しかし、抗がん剤投与期間中は歯科治療はご法度なため、治療が終わったら歯医者さんへ、と思いつつ、さらに先延ばしにしていたのだ。
虫歯と思いきや。
予約の電話を入れてから2週間後。久しぶりになじみのデンタルクリニックへ。3年前、歯科矯正のメンテナンスをしている最中にがんが発覚したため、せっかく着けていた装置を泣く泣く外したという経緯もあり、先生も久しぶりに現れた私を見て、ちょっと驚いている。よかったねえ。と声をかけてくれた。
診察が始まると、先生が言う。これは虫歯じゃないですね。歯を強く噛みしめすぎて、割れたんですよ。野球の選手とか、砲丸投げの選手とかに多いんですよと言う。私は室伏か。
いやいや、先生。奥歯、沁みるんですよ。だから虫歯だと思うんですよ。うーん。そうかなあ。どれどれ、と先生は冷たい風を奥歯にかける。歯の側面に風があたると沁みることを伝える。あー、歯の側面のここね。あー、溶けてるなあ。溶けてますよ。よく吐きました?
耐えがたきを耐え、忍び難きを忍び。
抗がん剤治療中、私は奥歯が割れるほど強く噛みしめて耐え、吐いたときの胃酸で歯を溶かしたらしいのである。どんだけ我慢強いんだっつーの。奥歯が砕けるほど噛みしめて、耐えがたきを耐え、忍び難きを忍んだ。私は室伏か。
結局私の左の上顎下顎の奥歯は虫歯ではなかった。欠けた歯の表面をきれいに丸めてもらい、今日のところは終了。噛み締めを和らげる、もしくは防ぐ方法を考えて、後日処置することになった。
がんサバイバーと家族のこと。
歯科医のS先生としばらく病気の話をする。S先生は私の治療のことを訪ねた後、K先生のことを話してくれた。先生の奥様、K先生も私と同様2017年に乳がんの手術をされているのだ。K先生の治療は私よりも困難で、いまだに日常生活に不自由があるらしい。
S先生は饒舌に、K先生の話をする。以前は寡黙だったS先生の、K先生を思う気持ちが伝わってくる。心配で心配で、仕方ないのだ。
がんに直面するのは患者だけではない。患者の不安や困難を直面して、それを受け止めて、一緒に日常生活を送る家族の不安も困難も大きいものだ。脱毛していく家族を見るとき、吐き気が強く何も食べられない家族の背中をさするとき、それを受け止めながらも、泣き叫びたい気持ちになるのは患者と家族、両者なのだ。
だから、患者も家族も、がんの人もそうでない人も、一緒にご飯を食べたり飲んだりして、そしてお互いの困難や、希望や、覚悟や、夢を語り合える場所、気持ちをシェアできる場所が必要なんだと、あらためて思う。
「キャンサー・サバイバー・ネクスト・ドア」も、そろそろまた、活動を開始したい。S先生、K先生にも参加してもらえたら。