「グランメゾン東京」を欠かさず見ている。家人が料理を題材にしたドラマが大好きなので、私もとりあえず一緒に見ているという感じ。主演の木村ちょ待てよ拓哉はじめ、主役を張れるようなキャストを揃えていて、展開もいい感じ。
ナッツ混入事件の真相もうっすらとわかってきたし、冨永愛扮するリンダさんも料理専門のジャーナリストだった中村アンも尾花（ちょ待てよ）のことを憎んでいるし、なぜかこの2人ともナッツ事件の恨み持っているみたい。玉森裕太とその周辺の恋模様はトライアングルだし、縦に横に伏線が張り巡らされている。
鈴木京香演じる凛子さんのお母さんは愛人で、大きな家もその相手からあてがわれたものというのも伏線の一部と見ている。これは私の予想なのだが、今後店の経営が芳しくなくなり、抵当に取られそうになるはず。そのとき、あんな大きな家を愛人にあてがえるだけの財力と気概のある老紳士＝凛子の実の父が打明かされ、店がつぶれる寸前のところで助け舟を出してくれるんじゃないか？とか。だけど、凛子の父は実はものすっごい大物なので、表立っては助けない、とか？ まあそんなにきらいなドラマではないし、伏線について考えたり予想したりするくらいには好きだけし、楽しんで見ている。
家人が前のめりになってドラマに引き寄せられるように見ているのとは裏腹に、私はどこか、冷めた感じで見ているのは、鈴木京香演じる凛子が気になるせいである。
凛子はフレンチのオーナーシェフとしてがんばってきた。彼女の夢は、ミシュランの星を取ることだったが、どんなにがんばってもその夢はかなう気配がなかった。どうしても星に手を届くようになりたい凛子はパリへ修行に向かうが、どのレストランにも雇ってもらうことはできない。そして、有名シェフだった尾花と出会う。
「グランメゾン東京」第一話ダイジェスト
ろくにフランス語も話せない50を過ぎた女が単身パリに乗り込んできて、3つ星レストランで働かせてほしいと泣いて懇願する様子、そして、ひょんなことから天才シェフ尾花と出会い、彼の作る一皿を食す。凛子は「すっごく美味しい…」と涙を流しながら食し、そしてこう言ったのだ。「なんで私には作れないんだろう…！」と。私はこのシーンに打ちのめされたのだった。
凛子、号泣。
ろくにフランス語も話せない50を過ぎた女が単身パリに乗り込んできて、3つ星レストランで働かせてほしいと泣いて懇願する、ミシュランの3つ星が獲得できるようなシェフになりたいって、夢なんだか妄想なんだかわからないくらい非現実的な願望を肥大化させた女。私の中にも、こういう肥大化した妄想みたいなものがあって、現実と妄想の乖離に身もだえていたから、よくわかる。わかり過ぎて辛いのだ。
尾花は、その様子に心打たれたのか、かえって利用してやろうと思ったのか、自分をスーシェフにやとって、一緒にレストランをやろう、そして3つ星を取ろうと誘い、この物語は動き出したのだ。
残すところあと4話か？ グランメゾン東京はみごと3つ星を取れるのか？それはわからない。そして、私が最も興味を持つこと、それは、凛子がそれで満足するのか否かだ。凛子は無論、過労でぶっ倒れるくらいハードワークだし、努力もしている。しかし凛子自身には3つ星を獲得するだけのセンス、才能はないわけだ。3つ星を取れるとしたら、それは尾花やその周囲のスタッフのおかげによるものだ。
ただ私は知りたい。自力であろうとなかろうと、3つ星には違いないと胸を張るのか、私は自分の力で星を得たいの！と言うのか。単身パリにやってきたときの、あの、取りつかれたような様子、焦り。それが手に取るようにわかって辛かった。50を過ぎても、まだ夢を叶えていない、そして描いた夢はたぶん叶えられない自分をそこに見たから。
自己憐憫に駆られているわけではない。ただ、50過ぎて、そしてがん治療したのち、はいもう降参です、って投げたものや、思いはいくつかある。もうあの、悶えるような焦燥感に自らズタズタにするような苦しみを味わうことはないんだな、と思うと、それはそれで寂しい気がするだけだ。もう、あんなのは嫌だけど。
ただやっぱり、泣き叫ぶほど欲しかったものを手に入れたとき、凛子さんが幸せになるのか否か、それが知りたい。そしてドラマの中だけでも、同じ50代女性として、凛子さんに夢を叶えてほしいと期待する私もいるわけなのだ。
