家族が運転する車に乗って、一路鎌倉方面に向かった。入院準備は万端だったはずなのに途中サービスエリアで休憩したとき、保険証を忘れたことを思い出す。なにやってんだか。シラケた気分で病院へ向かう。17年前の9月30日、私は入院したのだった。バースデーケーキもシャンパンも花束もない誕生日だ。そして翌日、10月1日に手術することになっていた。
病室に通され、パジャマ姿でベッドにひとり腰かけていると、心の声が聞こえない。波立っていない。不安も希望もない。ただただ心が静かになっていた。
あの日から17年経った。
手術した日を新たな誕生日だと考えているがんサバイバーは多いようだ。私も誕生日の翌日の手術を無事終えたとき、なんとなく生まれ変わったような、新しい私を得たような気分になったのを覚えている。去年の誕生日は抗がん剤の副作用が厳しくて家で静かにしていた。今年の誕生日は台風の中。でもこの嵐が、また新しい私を連れてきてくれるような気がしている。